庭をつくろう
人が今、よりよく生きていくために大切なことは何でしょうか。私は感受性と想像力を養うことだと思います。そしてそのためには、五感をフルに使える日々を獲得することです。
例えば、「空気に触れること…風を感じ日差しを浴びて季節の匂いを肌で感じる」「自分以外の命を感じること…鳥の囀りを聞き、ハチに驚き、アリの動きを目の片隅で追ってみる、そしてそれに触れてみる」。
踏みしめた土の感覚、木肌の手触り、冷たい石ころを拾い、夜露に濡れた草を引き抜く。そしてイメージして下さい。家族の笑顔を常にイメージするのです。家族の笑顔は自分の笑顔。このように日常、五感を磨ける場所は「庭」しかないでしょう。
バラバラな家族、空疎な心、ひきこもり…昨今、人間性の喪失が叫ばれています。家が人を守るなら、庭は家を守り家族を包み込む存在だと思います。最近の住宅事情では、人は温かい家を出ると、いきなり外の世界に放り出されます。そして、ひとたび外に出ればつらいことの連続です。そんな時、玄関を出て枝越しに青空を見上げることが出来たなら…花壇の片隅にチューリップの芽を見つけることが出来たなら…くたくたに疲れて夜更けに帰り、門灯に覆いかぶさる、親父が植えた木の枝の陰がやさしく伸びていたなら…。家と外の間にあるやさしい空間を持つ意義は小さくはないでしょう。
そして年末には恒例の庭そうじ。子供たちは落ち葉をかき集め、いつの間にか出てきたダンゴ虫やミミズと遊んでいます。金切り声を張り上げるお母さん、黙って笑うお父さん。日々の小さな感動の連続がやがて大きな感動を呼びます。伸びきったゴムのような心では、人生の推進力たりえる感動を味わうこともできないでしょう。
全ての人に歴史があります。その人の、その前の人の、そのまた前の人の。我々は常にそのつながりのなかで生かされています。花や木にも当然歴史があります。今私たちが目にしている花は、一体どれほど長く生の営みを繰り返し、この花を咲かせたのか…木は一体、何を見、何を聞き、今に至ったのか…。石は一体どこで生まれ、爆発し、割れ、転がり続けたのか…。そして今、皆が何を思い、思わないのか…。
いずれは誰もが草や木や土や石、空や海に還っていくのです。休みの日には窓辺に座って、なんでもない石や一輪の花にそんな思いを馳せてみる。そんな贅沢な人生も悪くないと思うのですが。
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